「首里織」の後継者として、伝統工芸産業の普及と発展に向けて活動する若手職人 普久原 裕子さんに首里織職人を志したきっかけや染織に寄せる想いなど、話を伺いました。
「首里織」職人を志して今年で14年目になります。私は幼少期から、裁縫などの手を動かす作業が好きだったこともあり、「織物」にチャレンジしたいという想いが転じて、織や染めが学べる「首里高校 染色デザイン科」へ入学し、伝統工芸品である「首里織」や「琉球びんがた」について学びました。
高校卒業後は、沖縄県工芸振興センターや那覇伝統織物事業協同組合が実施するの人材育成講座を受講し、更なる織物技法の習得と技術力の向上に励みました。その後は、私が師と仰ぐ山口良子先生の工房にて約6年間働きながら1人前の職人になるため、様々な製品作りや首里織技法のひとつである花倉織の技能習得などに挑戦しました。現在は独立し、自宅工房にて首里織の制作・普及に取り組んでいます。
「首里織」は、デザイン設計から製品検査までいくつもの作業工程を経て完成します。
私は、個人で活動しておりますので、自宅の一室に織り機2台を設置し、製織などの作業を行っています。デザイン設計から製織まで基本的な作業は、自宅の作業場で行っておりますが、染色や洗い張り(織物のしわを伸ばし乾かす手法)など、特定の道具や人手を要する作業は、首里織工芸館の共同染色室などを利用し、時には他の組合員と助け合いながら共同で作業を行っています。
制作期間は製品によって異なりますが、帯・着尺で約3か月程かかり、製品1つ1つを真心込めて手作業で行っています。一連の作業工程を経た後に、製品は沖縄県織物検査規格に基づく首里織製品基準に関する検査を受け、この検査を通過して初めて伝統的工芸品として認められます。
検査通過後、伝統織物事業協同組合による証紙をはじめ、関係機関の証紙が貼り付けられ、ようやく製品としてお客様の手元へ届けることができる状態になります。このように様々な作業工程や検査を経るため、検査立会日はとても緊張します。ですが、その分検査を通過した時に得られる達成感はとても大きいです。
多くの組合員は、私と同じく、個人事業主として1人で活動しており、原材料の仕入から制作、販売までの一連の過程を1人で担うのは、時間・労力共にとても困難ですが、組合のサポートにより、円滑な製品づくりに打ち込めています。
絹糸など製品の原材料を安定的に確保する共同購買事業や、私たちの製品を販売(受託)する共同販売事業、その他にも販路獲得に関する支援など、さまざまなサポートのもと、私たち組合員は安心してものづくりに専念できています。
私たちは、製品に買い手がついて初めて収入が得られます。そのため、製品が売れないと収入に結びつきませんし、売る機会というのはとても重要です。組合からの製品制作依頼や問屋さんから直接注文を頂いたりすることで、収入を安定的に確保することができ、大好きなこの仕事が続けられています。
「首里花倉織」は、幻の織とも呼ばれており、数ある技法の中で最も難易度が高く、また品位の高い技法であると共に、私が最も好きな技法の1つです。日々の製品づくりにおいて、花倉織へのチャレンジは、技法を体得していく過程に成長を感じることができるため、それが喜びへと繋がっています。
一方で、織りのスタート部分を飾るデザイン設計は、作業のモチベーションや完成時の達成感、製品販売についてカギを握る重要な過程です。そのため、デザイン設計は妥協が許されない最も難しい作業工程となります。制作に取り組む際は、これでいいではなく、「これがいい!」という強い気持ちで取り組むことがとても重要だと思います。
「あの着尺が売れたよ」という報告や展示会での注文が入った時など、丹精込めて制作した製品の買い手が見つかった時は、この仕事を行う中で最も喜びを感じる瞬間です。その喜びは、仕事へのやりがいやモチベーションへと繋がり、次も頑張ろう!という気持ちへと導いてくれています。
私は個人で活動していることもあり、比較的自由にスケジュール設定ができるため、家事と仕事の両立を実現することができています。そのため仕事を行う際は、短期・長期的な目標のもと作業見通しを立て、制作しています。
家族に合わせた柔軟なスケジュール設計が可能で、私の場合は夫の休みに合わせ休日設定をしています。この仕事は、自宅での作業も可能なため、子どもを保育園に預けている間に仕事をしたり、育児との両立も可能です。また定年退職もないため、いつまでも現役で仕事ができ、手に職があるということも、この仕事における魅力の1つですね。
わたしの夢は、私たちの大切な文化である首里織の振興・発展に向けて活動を続けていくことです。具体的には、製品制作を通じた首里織の普及活動を継続させることに加え、私が師と仰ぐ山口良子先生のように、工房を構え弟子を取り、後継者育成に関する活動を行いたいと考えています。
その他にも、首里織の枠を超えた活動として、びんがた職人である高校の同級生と共に「首里織・紅型の作品展示会」の開催にチャレンジしたいと考えています。展示会を通じて、伝統工芸品の美しさや素晴らしさを、広く発信していきたいですね。このような夢の実現に向けて、織や染めなどの技術力を向上させるため、さらなる努力を積み重ねていきたいと考えています。
私たちは、那覇の大切な伝統工芸品である「首里織」の更なる発展と、次世代への継承というミッションを担い、日々制作に励んでいます。
首里織は、県内・県外ともに依然として認知度が低いため、認知度向上に向けたPR強化など、更なる取り組みが必要だと考えています。加えて、「首里織」製品を県民の皆様方の手に取ってもらえるよう、市場ニーズに合わせた、柄・色を取り入れた製品作りなど作り手による創意工夫が重要だと考えています。そのため、伝統的な技法を受け継ぎつつ、シャーベットカラーやパステルカラーなど移り変わる流行を捉え、時代に合った製品作りに努めています。
デザイン設計から織りまでの、一連の作業を通じて、自分のアイディアが形になる喜びや、自分の手で新たなモノを生み出す楽しさを感じることができます。丹精込めて制作した製品が、お客様のもとへと渡り、実際に使用して頂いている姿を見ることや、自分の好きな柄や色で製品を作り、それを自分自身で使用することも、一つの楽しみです。
このように、首里織職人としての楽しさややりがいなどを次世代へとつなげながら、首里織の普及と更なる発展に向けて、今後も精力的に制作などに取り組んでいきたいです。